はなんにも巻き付いていなかったが、おそらく手拭か細紐のたぐいで絞めたものであろうと認められた。本部屋にいた吉助は勿論、名代《みょうだい》部屋にいたお駒の客ふたりは高輪の番屋へ連れてゆかれた。
二
「半七。一つ骨を折ってくれ。伊勢屋のお駒にはおれも縁がある。不憫《ふびん》なものだ。早くかたきを取ってやりてえ。何分たのむ」
半七は、八丁堀同心室積藤四郎の屋敷へ呼び付けられて、膝組みで頼まれた。藤四郎はおとどしの一件があるので、お駒の変死については人一倍に気を痛めているらしい。それを察して半七も快く受け合った。
「かしこまりました。精いっぱい働いてみましょう」
半七はすぐに引っ返して品川の伊勢屋へ行った。かれは若い者の与七を店口へよび出して訊いた。
「どうも飛んだ事が出来たね。名物のお駒を玉無しにしてしまったというじゃあねえか」
「まったく驚きました」と、与七も凋《しお》れ返っていた。「御内証でもひどく力を落としまして、まあ死んだものは仕方がないが、せめて一日も早くそのかたきを取ってやりたいと云って居ります」
「そりゃあ誰でもそう思っているんだ。取り分けて上《かみ》から御褒
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