ながめると、虎は急に眼がさめたように不格好な首を左右にふらふらと揺《ゆる》がした。しかしお駒は醒めなかった。彼女はいつのまにか冷たくなって永い眠りに陥っているのであった。それを発見した吉助は張子の虎をほうり出して飛び起きた。彼はふるえ声で人を呼んだ。
 大勢が駈け集まってだんだん詮議すると、お駒は何ものにか絞め殺されていることが判った。正体もなしに酔い臥《ふ》していた吉助は、そばに寝ているお駒がいつの間に死んだのかを知らないと云った。しかし一つ部屋に居合わせた以上、かれは無論にそのかかり合いを逃がれることは出来ないで、諸人がうたがいの眼は先ず彼の上に注がれた。場所といい、事件といい、主人持ちの彼に取っては迷惑重々であったが、よんどころない羽目《はめ》と覚悟をきめたらしく、かれは検視の終るまでおとなしくそこに抑留されていた。
 伊勢屋の訴えによって、代官伊奈半左衛門からの役人も出張した。夜のあける頃には町与力《まちよりき》も出張した。品川は代官の支配であったが、事件が事件だけに、町方も立ち会って式《かた》のごとくに検視を行なうと、お駒はやはり絞め殺されたものに相違なかった。
 かれの首に
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