でしょうね」と、お定は僅かにうなずいた。
「まあ、待っていねえ。今にかたきを取ってやるから」
「どうぞおたのみ申します」
お定は襦袢《じゅばん》の袖口で眼をふいていた。それをあとに見て半七は奥へ通ると、主人夫婦はいよいよ顔を陰《くも》らせていた。お浪の駈け落ちや張子の虎の詮議がひと通り済んだあとで、半七は主人を慰めるように云った。
「なに、もう御心配にゃあ及びません。もう見当は大抵ついています。あのお定という新造は通いですか。家《うち》はどこですえ」
「すぐ二、三軒さきの酒屋の裏で、洗濯|婆《ばあ》さんの二階を借りています」と、主人夫婦は答えた。
「じゃあ、わたしはこれからその留守宅を調べに行きますから、本人にも知らさないようにして置いてください」
「お定になにか御不審があるんですか」と、女房はびっくりしたように訊《き》いた。
「いや、まだ確かに判りません。まあ、ちょいと行って見ましょう」
半七はしずかに起《た》って出て行ったが、それから小半|※[#「日+向」、第3水準1−85−25]《とき》も経たないうちに、手拭に巻いた片足の草履を持って来た。かれは与七を呼んで、この間あずけて置
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