んから、どこへかしっかり預かって置いてください」
「大切におあずかり申して置きます」
 それから与七に案内させて、半七は二階中をひと廻り見てあるいた。表二階から裏二階へまわって、お駒の部屋も無論にあらためた。部屋は三畳と六畳との二間《ふたま》つづきで、六畳の突き当りは型のごとく※[#「木+靈」、第3水準1−86−29]子窓《れんじまど》になっていた。去年の暮あたりに手入れしたらしい※[#「木+靈」、第3水準1−86−29]子はそのままになっていて、外から忍び込んだ者があるらしくも見えなかった。それでも念のために窓から表をのぞくと、伊勢屋の店は海側で、裏二階の下はすぐに石垣になっていた。品川の春の海はちょうど引き潮で、石垣の下には潮に引き残された瀬戸物の毀《こわ》れや、粗朶《そだ》の折れのようなものが乱雑にかさなり合って、うららかな日の下にきらきらと光っていた。
 遠目《とおめ》の利く半七は※[#「木+靈」、第3水準1−86−29]子に縋《すが》ってしばらく見おろしているうちに、なにを見付けたか急に与七を見かえって訊いた。
「お駒の草履は何足《なんぞく》あるね」
「二足ある筈です」
「そ
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