置いてあったというが、そりゃあほんとうかえ」
 お定は黙って泣いていると、与七はそばから代って答えた。
「ありました。小さい玩具《おもちゃ》のようなもので、それは御内証にあずかってあります。お目にかけましょうか」
「むむ、見せて貰おう」
 半七はあがり口に腰をおろすと、与七は一旦奥へ行ったが又すぐに出て来て、ともかくもこちらへ通ってくれと招じ入れた。奥へ通ると、主人夫婦は陰《くも》った顔をそろえて半七を迎えて、かの張子の虎というのを出してみせた。虎は亀戸《かめいど》みやげの浮人形のたぐいで、背中に糸の穴が残っていた。半七はその小さい虎を手のひらに乗せて、その無心にゆらぐ首をしばらくじっと眺めていたが、やがてそれを膝の前にそっと置いて、煙草を一服しずかに吸った。
「この虎はお駒の物じゃあないんですね」
「お駒の部屋にそんな物はなかったようです」と、主人は答えた。「お駒に限らず、この二階じゅうで誰もそんなものを持っていた者はないと申します。どこから誰が持って来たのか、一向にわかりません」
「ふうむ」と、半七も首をかしげた。「だが、これは大切な品だ。これがどんな手がかりにならねえとも限りませ
前へ 次へ
全36ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング