うと》でないことを半七も認めた。
「そこで、ここの家《うち》でお駒と一番仲のいいのは誰だえ」
「お駒さんは誰とも美しく附き合っていたようですが、一番仲好くしていたのはお定《さだ》という下新造《したしん》のようでした。お定はちょうど去年の今頃からここへ来た女で、お駒さんとは姉妹《きょうだい》のように仲好くしていたということです。それですからお定は今朝から飯も食わずにぼんやりしていますよ」
「じゃあ、そのお定をちょいと呼んでくれ」
 眼を泣き腫《は》らしたお定が店口へおずおずと出て来た。お定は二十五六で、色のあさ黒い、細おもての力《りき》んだ顔で、髪の毛のすこし薄いのを瑕《きず》にして、どこへ出しても先ず十人なみ以上には踏めそうな中年増《ちゅうどしま》であった。半七からお駒の悔みを云われて、かれは涙をほろほろとこぼしながら挨拶していた。
「お前はお駒と大変仲好しだったというが、今度の一件について何か思い当ることはねえかね」
「親分さん。それがなんにもないんです。わたくしはまるで夢のようで……」と、お定はしゃくりあげて泣き出した。
「そりゃあ困ったな。お駒の枕もとに何か張子の虎のようなものが
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