れはみんな揃っているかえ」
「揃っている筈です」
「そうか。いろいろ気の毒だが、今度は裏口へ案内してくれ」
裏梯子を降りて裏口へまわって、半七は石垣の上に立った。かれは足の下をもう一度みおろして、それから石段を降りて行った。なにをするのかと与七は上からのぞいてみると、半七はうず高い塵芥《ごみ》のあいだを踏み分けて、大きいごろた石のかげから重ね草履の片足を拾い出した。かれは湿《しめ》った鼻緒をつまみながら与七にみせた。
「おい、よく見てくれ。こりゃあお駒のじゃあねえか」
「さあ」と、与七は覗きながら考えていた。
「親分さん」
上から呼ぶ声がするので見あげると、お定も二階の※[#「木+靈」、第3水準1−86−29]子《れんじ》から覗いていた。
「お前もこの草履を知っているか」と、半七は下から声をかけた。
「待ってください。今そこへ行きますから」
お定は※[#「木+靈」、第3水準1−86−29]子のあいだから姿を消したかと思うと、やがて、裏口へ廻って来て、その草履をひと目見るとすぐに又泣き出した。
「これはお駒さんのです。あの人がわたくしに一度見せたことがあります。それはお駒さんが大切
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