い症状を表わして来て、病人はうつむいて両足を長くのばし、両手を腰の方へ長く垂れて、さながら魚の泳ぐような、蛇の蜿《のた》くるような奇怪な形をして這いまわる。さりとて家《うち》じゅうを這いまわるのでもない。大抵は敷蒲団の上を境として、その上を前へうしろへ、右へ左へ蜿うつのである。それが魚というよりむしろ蛇に近いので、看病の人たちはうす気味悪がった。思いなしか病人の眼は蛇のように忌《いや》らしくみえて、口から時々に紅い舌をへらへら[#「へらへら」に傍点]と吐く。こうした気味の悪い病症を三日五日も続けた後に、病人の熱は忘れたように冷めてけろり[#「けろり」に傍点]と本復するが、病中のことはなんにも記憶していない。なにを訊《き》いても知らないという。しかしそれらは軽い方で、重いのになるとその奇怪の症状を幾日も続けているうちに、とうとう病み疲れて藻掻《もが》き死にの浅ましい終りを遂げる者もあった。それが僅かに一人や二人であったならば、蛇を殺した祟りとでも云われそうなことであったが、なにをいうにも大勢であるために、その病人をことごとく蛇を殺した人間と認めるわけにも行かなかった。殊にそのなかには蛇を
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