もうすっかりいいかえ」と、半七は訊いた。
「ありがとうございます。お庇《かげ》さまで、もうすっかりと癒《なお》りました。その節はいろいろ御心配をかけまして恐れ入りました。おかみさんもくれぐれも宜しく申してくれと云って居りました」
「なにしろ、早く癒ってよかった」と、半七も嬉しそうに云った。「時に備前屋の娘はどうしたね。その後病み付いているとかいう噂だが……」
「そうでございます。一時は何だかぶらぶらしていて、ときどきに熊が出るとか云って騒ぐので、親たちも困っていたそうでございます。備前屋は店の大きい割合に奥が狭いので、もう一度、橋場の離れ座敷を借りて、そこでゆっくり養生させようかなどと云っていたそうですが、この頃は大分《だいぶ》いいとか云いますから、どうなりますか」
「なるほど、そりゃあ困ったね」と、半七は眉をよせた。「折角お前に助けて貰っても、あとがそれじゃあ何にもならねえ。しかし、そういう病気じゃあむやみに薬を飲んでもいけねえ。どこか閑静なところへ行って、ゆっくりと気を落ち着けていたら、自然に癒るだろうよ」
「そうかも知れません」
 勘蔵はくり返して礼を云って帰った。最初から深くも
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