半七捕物帳
熊の死骸
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)上《かみ》の御用

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一旦|躊躇《ちゅうちょ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ごうごう[#「ごうごう」に傍点]
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     一

 神信心という話の出たときに、半七老人は云った。
「むかしの岡っ引などというものは、みんな神まいりや仏まいりをしたものです。上《かみ》の御用とはいいながら、大勢の人間に縄をかけては後生《ごしょう》が思われる。それで少しでも暇があれば、神仏へ参詣する。勿論それに相違ないのですが、二つにはそれもやっぱり商売の種で、何かのことを聞き出すために、諸人の寄りあつまる所へ努めて顔出しをしていたのです。わたくしなどもそのお仲間で、年を取った今日《こんにち》よりも却《かえ》って若いときの方が信心参りをしたものです。いや、その信心に関係のあることではないのですが、弘化二年正月の二十四日、きょうは亀戸《かめいど》の鷽替《うそか》えだというので、午《ひる》少し前から神田三河町の家を出て、亀戸の天神様へ
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