く振りをして後から出て行った。
大雪の夜は更《ふ》けて、町には往来の絶えているのが彼等のためには仕合わせであった。四人は三、四町ほども死骸をはこび出して、堀端の火除け地に捨てようとしたが、なるべく一日でも後《おく》れて人の眼につくことを考えて、かれらは協力してそこに大きな雪達磨を作った。そうして、甚右衛門の死骸をその底へ深く埋めて置いた。いっそ往来へ投げ出して置いたらば、凍死か行き倒れで済んだかも知れなかったのであったが、かれらの浅はかな知恵が却《かえ》っておのれに禍いして、思いもよらない悪事発覚の端緒を開いたのであった。
勿論、かれらは甚右衛門のふところや袂から証拠となるような品々をことごとく取り出してしまった。菊一で買った南京玉も無論取り出したのであったが、心が慌てているので其の幾粒かをこぼしたらしい。そうして、その南京玉が彼等を当然の運命に導いたのであった。
贋金つかいの商人《あきんど》四人と共謀の錺職三人がすべて法のごとくに処刑されたのは云うまでもない。先に死んで刑戮《けいりく》をまぬかれた幸運の甚右衛門は、専ら旅先で贋金をつかっていたのであるが、他の商人四人は江戸市中で
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