半七捕物帳
雪達磨
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)所詮《しょせん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二番御|火除《ひよ》け地

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あっ[#「あっ」に傍点]
−−

     一

 改めて云うまでもないが、ここに紹介している幾種の探偵ものがたりに、何等かの特色があるとすれば、それは普通の探偵的興味以外に、これらの物語の背景をなしている江戸のおもかげの幾分をうかがい得られるという点にあらねばならない。わたしも注意して、半七老人の談話筆記をなるべく書き誤らないように努めているつもりであるが、その説明がやはり不十分のために、往々にして読者の惑いを惹き起す場合がないとは限らない。
 これらの物語について、こういう不審をいだく人のある事をしばしば聴いた。それは岡っ引の半七が自分の縄張りの神田以外に踏み出して働くことである。岡っ引にはめいめいの持ち場がある。それをむやみに踏み越えて、諸方で活動するのは嘘らしいというのである。それは確かにごもっともの理窟で、岡っ引は原則として自分
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