職の源次とが年始に来ていた。丁度いいところだと奥へ通されて、日の暮れるまで五人が酒をのんでいるうちに、甚右衛門は豊吉にたのまれた十五両のことを云い出すと、九郎右衛門も由兵衛もいやな顔をした。そして、そのくらいの金は甚右衛門が用立てるのが当然だと云った。この仕事については甚右衛門がふだんから一番余計に儲けているという不平話も出た。なにしろみんな酔っているので、ふた言三言の云い争いからあわや腕ずくになろうとする一刹那に、どうしたのか甚右衛門はうん[#「うん」に傍点]と唸ったままで倒れてしまった。四人もさすがにおどろいて介抱したが、もう蘇《い》きなかった。
「さあ、どうしよう」
四人は顔を見あわせた。頓死として正直にとどけて出れば論はないのであるが、彼等には何分にもうしろ暗いことがあるので、甚右衛門の死をなるべくは秘密に付してしまいたいと思った。四人は夜のふけるまで甚右衛門の死骸をそこに横たえて置いて、店の者の手前は正体なく酔っている彼を介抱して帰るように見せかけて、豊吉と源次はその死骸を肩にかけて出た。由兵衛も附き添って出た。主人の九郎右衛門もなんだか不安なので、これもそこらまで送ってゆ
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