金つかいであることが明白になった。
 雪達磨の底にうずめられていた甚右衛門は、上州太田在の生まれであるが、今は一定の住所もないのである。
 かれらが南京玉を原料として作りあげた贋金は専《もっぱ》ら一分金と二分金とで、それを江戸でばかり遣っていると発覚の早いおそれがあるので、甚右衛門は田舎者に化けて、旅から旅を渡りあるいて、巧みにそれを遣っていたのであった。
 それにしても甚右衛門を誰が殺したのか、それはまだ判らなかった。

     四

 贋金つかいは江戸時代の法として磔刑《はりつけ》の重罪である。かれら一同はどうで助からない命であるから、誰が甚右衛門を殺そうとも所詮は同じ罪であるものの、ともかくもその事情を明白にしておく必要があるので、一同は更にきびしい吟味をうけた。そうして、かれら七人のなかで雪達磨の一件に直接関係のあるのは、かの錺《かざり》職の豊吉と源次と、近江屋九郎右衛門と石坂屋由兵衛との四人であることが判った。
 豊吉が品川から連れてきたお政という女は、もう年明《ねんあ》け前でもあったが、それでも何やかやで三十両ばかりの金がいるので、豊吉は抱え主にたのんで先ず半金の十五両を
前へ 次へ
全24ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング