れも一軒の店で一度にたくさん買い込むと人の眼につくので、田舎者の振りをして方々の店から少しずつ買いあつめていたのに相違ねえ。てめえは錺屋だ。あの甚右衛門とぐる[#「ぐる」に傍点]になって、贋金をこしらえる手伝いをしたろう。どうだ、これでもまだ白《しら》を切るか」
 豊吉はまだ黙っていた。
「まだ云って聞かせることがある」と、半七はあざ笑いながら云いつづけた。「てめえはいい女房を持っているな。あの女は幾らで品川から連れてきた。その金はどこで都合して来た。てめえ達が一年や半年、夜の目も寝ずに稼いだって、女郎なんぞを請け出して来るほどの金はできねえ筈だ。その金はみんな甚右衛門から出ているんだろう」
 ここまで問いつめられても、豊吉はまだ強情に口をあかないので、彼をひと先ず番屋につないで置いて、半七は更にその女房をよび出して、彼の家へふだん近しく出入りするものを調べた。その結果、おなじ職人の源次と勝五郎、四谷の酒屋|播磨《はりま》屋伝兵衛、青山の下駄屋石坂屋由兵衛、神田の鉄物《かなもの》屋近江屋九郎右衛門、麻布の米屋千倉屋長十郎の六人を召し捕って、一々厳重に吟味すると、果たして彼等一同共謀の贋
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