も叱りおくだけで赦された。しかし長作の罪科は今の人が想像する以上に重いものであった。かれは路に倒れている人を介抱しないばかりか、あまつさえ其の所持品を奪い取るなど罪科重々であるというので、引き廻しのうえ獄門ときまって、かれの首は小塚ッ原に晒《さら》された。
 寺社奉行の命令で、松円寺の化け銀杏は往来に差し出ている枝をみな伐《き》り払われてしまった。

 これだけの話を聴いても、わたしにはまだ判らないことがあった。
「お豊が古道具屋へ売った探幽の鬼は贋物《にせもの》だったのですね。そうすると、忠三郎という番頭は稲川の屋敷から贋物を受け取って来たのでしょうか」
「そうです、そうです」と、半七老人はうなずいた。「稲川の屋敷でも初めから贋物をつかませるほどの悪気はなかったのですが、五百両を半分に値切られたので、苦しまぎれに贋物を河内屋へ渡して、ほん物の方を又ほかへ売ろうと企《たくら》んだのです」
「どうしてそんな贋物が拵えてあったのでしょう。初めから企んだことでもないのに……」
「それはこういうわけです。探幽のほん物は昔から稲川の家に伝わっていたんですが、なんでも先代の頃にどこかでその贋物を見
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