りしたもんですから、とうとうお目に止まったような次第で、なんとも申し訳がございません」
お豊が井戸へ飛び込もうとした仔細もそれでわかった。
半七が大抵想像していた通り、かれは亭主の悪事を知っていたのであった。
その明くる日の夕方、長作は藤代の屋敷へはいろうとするところを、かねて網を張っていた仙吉に召捕られた。忠三郎を投げ倒したのは周道のいたずらで、長作はなんにも係り合いのないことであった。彼はその晩博奕に負けてぼんやり帰ってくると、雪まじりの雨のなかに一人の男が倒れているのを見つけたので、初めは介抱してやるつもりで立ち寄ったが、かれの胴巻の重そうなのを知って、長作は急に気が変った。まず胴巻だけを奪い取って行きかけたが、毒食らわば皿までという料簡になって、彼は更に忠三郎が大事そうに抱えている風呂敷包みを奪った。羽織まで剥ぎ取った。しかも悪銭は身につかないで、百両の金も酒と女と博奕でみんなはたいてしまった。
「舅や女房はなんにも知らないことでございます。どうぞ御慈悲をねがいます」と、彼は云った。
実際なんにも知らないと云えないのであるが、さすがに上《かみ》の慈悲であった。峰蔵もお豊
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