や一両の値打ちはありますからね。して見れば、中身は反古《ほご》だって損はない筈です。わたしもあんなものは手がけたことが無いので、一旦はことわったのですけれど、近所ずからで無理にたのまれて、よんどころなく引き取ったのですが、年の暮にあんな物を寝かして置くのも迷惑ですから、二百でも三百でも口銭《こうせん》が付いたら売ってしまう積りで、通りかかった屑屋の鉄さんを呼んで、店のまえであの掛地をみせているところへ、横合いからあの人が出て来て、何でもおれに売ってくれろと、自分の方から値をつけて、引ったくるように買って行ってしまったんですから、食わせ物も何もあったもんじゃありませんよ」
「そりゃあお前さんの云う通りだ。万さんもなかなか慾張っているからね。ときどき生爪《なまづめ》を剥がすことがあるのさ。そこで、あの掛地はどこの出物《でもの》ですえ」
「さあ、生まれは何処だか知りませんが、ここへ持って来たのは、裏の大工の家《うち》のお豊さんですよ」
裏の大工は峰蔵という親方で、娘に弟子の長作を妻《めあ》わせて、近所に世帯を持たせてあるが、道楽者の長作は大工というのは表向きで、この頃は賽の目の勝負ばかりを
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