う》は好し、人品はいいので、なかなか神々《こうごう》しくみえるということだ。どうだ、ほんものだろうか」
「そうですねえ」と、半七は再び首をかしげた。「京都へお聞きあわせになりましたか」
「勿論、念のために聞き合わせにやってある。その返事はまだ判らねえが、冷泉為清という公家はいねえという話だ。といったら、考えるまでもなく、それは偽者だというだろうが、なにぶんにも今の時節だ。ひょっとすると、ほんとうの公卿の娘が何かの都合でいい加減の名をいっているのかも知れねえからな。そこが詮議ものだ」
「ごもっともでございます」
 半七もうなずいた。今の時節――勤王討幕の議論が沸騰している今の時節では、仮りにも京都の公家にゆかりがあるという者、それは厳重に詮議しなければならない。殊に祈祷にことよせて、多分の金銀をあつめるなどとは聞き捨てにならない。討幕派の軍用費調達というほどの大仕掛けではなくとも、江戸をあばれ廻る浪士どもの運動費調達ぐらいのことは無いともいわれない。岡崎が懸念するのも無理はないと思ったので、半七はすぐにその探索に取りかかることを受け合って帰った。
 かれは神田の家へ帰って、子分の多吉を呼
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