んだ。多吉はその話を聞かされて頭をかいた。
「親分、申し訳ありません。その女の行者のことは、このあいだからわっしもちらりと聞き込んでいたんですが、ついその儘にして置いて、八丁堀の旦那に先手をうたれてしまいました。こいつは大しくじり、あやまりました。だが、あの辺は瀬戸物町の持ち場じゃありませんか」
「瀬戸物町もこの頃はひどく弱ったからな」と、半七は考えながら云った。
多吉のいう通り、茅場町辺の事件ならば、そこは瀬戸物町の源太郎という古顔の岡っ引がいるので、当然彼がその探索を云い付けられる筈であるが、源太郎はもう老年のうえに近来はからだも弱って昔のような活動も出来なくなった。子分にもあまり腕利《うでき》きがなかった。それらの事情で今度のむずかしい探索は特に半七の方へ重荷をおろされたのであろう。それを思うと、彼はいよいよ責任の重いのを感じないわけには行かなかった。
「多吉。まあ、しっかりやってくれ。なにしろ其の行者という奴が一体どんなことをするのか、それを先ず詳しく詮議しなければなるめえ。なんとかして手繰《たぐ》り出してくれ」
「ようがす。一つ働きましょう」
事件の性質が重大であるのと、
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