ら、唯そればかりじゃあ判断がつくめえ」
岡崎はちょっと笑い顔をみせたが、又すぐにまじめになった。
「変な奴の正体は女の行者《ぎょうじゃ》だ。案外に年を食っているかも知れねえが、見たところは十七か十八ぐらいの美しい女で、何かいろいろの祈祷《きとう》のようなことをするのだそうだ。まあ、それだけなら見逃がしても置くが、そいつがどうも怪《け》しからねえ。女がいい上に、祈祷が上手だというので、この頃ではなかなか信者がある。この信者のなかで工面《くめん》のよさそうな奴を奥座敷へ引き摺り込んで、どう誤魔化すのか知らねえが、多分の金を寄進させるという噂だ。男だけならば色仕掛けという狂言かとも思うが、そのなかには女もいる。いい年をした爺さんも婆さんもある。それがどうも腑《ふ》に落ちねえ。いや、まだ怪しからねえのは、そいつが京都の公家《くげ》の娘だと云っているそうだ。冷泉為清《れいぜいためきよ》卿の息女で、左衛門局《さえもんのつぼね》だとか名乗って、白の小袖に緋《ひ》の袴《はかま》をはいて、下げ髪にむらさき縮緬《ちりめん》の鉢巻のようなものをして、ひどく物々しく構えているが、前にもいう通り、容貌《きりょ
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