なかったが、おそらく自分の不埒を恥じ悔んで、面目なさの家出であろうということに諸人の意見が一致した。
家出の動機がそれであるとすると、久次郎の身のうえにかかる不安はいよいよ大きくなって来た。お豊は狂気のようになって騒ぎ出した。かれはすぐに祈祷所へ駈けて行って、久次郎のゆくえを占《うらな》って貰うことにした。番頭の重兵衛は瀬戸物町の源太郎のところへ駈けつけて、秘密にその探索方をたのんだ。親類そのほかの心当りへも使を出した。
この報告を聞いて、半七は膝を立て直した。
「それじゃあ、いよいよ思い切って手入れをしなけりゃあなるめえ。伊勢屋の番頭が瀬戸物町へ駈け込んで、そっちから何かちょっかいを出されると面倒だ」
「すぐにやりますかえ」と、多吉は訊《き》いた。
「むむ、すぐに取りかかろう。相手はその行者と、式部とかいう奴と、藤江という女だ。まずそれだけだな。いや、かかり合わねえといっても、女中ふたりも逃がしちゃあいけねえ。まだほかにどんな奴が忍んでいるかも知れねえ。源次は表向き面出しをするわけにも行かねえんだから、多吉一人じゃあちっと手不足かも知れねえよ。善八でも呼んで来い」
「善八ひとりで
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