たくさんですかえ」
「それでよかろう。なんといっても相手は女だ。そんなに大勢でどやどや押し掛けて行くのも見っともねえ」
多吉はすぐに子分の善八を呼びに行った。源次はその後の模様を探るために、再び炭団伊勢屋の方へ出て行った。半七が身支度をして神田の家を出たのは朝の四ツ(午前十時)過ぎで、会式桜《えしきざくら》もまったく咲き出しそうな、うららかな小春|日和《びより》であった。
半七は途中で買物をして、更になにかの支度をして、日本橋茅場町の祈祷所へたずねてゆくと、以前は誰が住んでいたか知らないが、新らしく作り直したらしく門柱には神教祈祷所という大きな札がかけられて、玄関先に注連《しめ》が張りまわしてあった。六畳ばかりの玄関には十四五人の男や女が押し合うように詰めかけていて、坐り切れない人達は式台の上までこぼれ出していた。半七もおとなしくそこに坐って、自分の順番のくるのを待っていると、そのあとから又五、六人がだんだんはいって来た。そのなかには子分の善八もまじめな顔をしてまじっていた。かれは勿論半七の方を見返りもしないで、ほかの人達となにか小声で話しているらしかった。
一人ひとりの祈祷や占
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