怪な出来事に相当の注意を払っていた。
「無総寺というのはこの辺かしら」
そう思いながら歩いてくると、ある寺の土塀に沿うた大きい溝のふちに、ひとりの少年が腹這いになっているのを見た。少年は十三四歳の小坊主で、土のうえに俯伏《うつぶ》しながら何か溝のなかの物を拾おうとしているらしかった。半七はそのまま通り過ぎようとして、なに心なくその寺の門を見あげると、門の額《がく》に無総寺と記《しる》してあったので、かれは俄かに立ちどまった。時光寺の住職に化けていた狐の死骸は、ここの大溝から発見されたというのである。その溝のふちに小坊主が腹這いになって何か探しているらしいのを、半七は見すごすことが出来なかった。かれは立ち寄って声をかけた。
「お小僧さん。なにか落したのかえ」
それが耳にもはいらないらしく、小坊主は熱心になにか拾おうとしていた。しかしまだ十三四の子供の手では溝の底までとどかないので、かれは思い切って下駄をぬいで、石垣を伝《つた》って降りようとするらしかった。半七は再び声をかけた。
「もし、もし、お小僧さん。なにを取ろうとするんだ。なにか落したのなら、わたしが取ってあげる」
小坊主は初
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