あげられてしまったのですが、その時に住職が手早く仏像だけをぬき出して自分の袂《たもと》へ隠したのを、相手の者は気がつかなかったと見えます」
「その落着《らくぢゃく》はどうなりました」
「事件もこうなると大問題です」と、老人は眉をしかめて云った。「無論に寺社方の裁判になりました。本山から出府している坊主は十一人ありましたが、ほかの寺に宿を取っていた七人はこの事件に関係がないというので免《ゆる》されました。安蔵寺に泊まっていた四人、その三人は住職の駕籠について行き、一人は江戸に残っていましたが、いずれも召し捕って入牢《じゅろう》申し付けられ、その中で二人は牢死、二人は遠島になりました。時光寺の納所《なっしょ》の善了も本山派に内通していたという疑いをうけて、寺を逐《お》い出されたそうです。この事件も手をひろげたら随分大きくなるでしょうが、本山の方へは一切《いっさい》手を着けずに、江戸だけで片付けてしまいましたから、前にいった四人のほかには罪人も出ませんでした。時光寺の住職はその後に療治をして、すこしは声が出るようになったので、やはり元の寺に勤めていましたが、上野の戦争のときに彰義隊の落武者《
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