おちむしゃ》をかくまったというので、寺にも居にくくなって、京都の方へ行ったそうです。英俊は利口な小僧で、その時に師匠と一緒に行って、今では京都の大きい寺の住職になっていると聞きました。なにしろこの探索では小坊主が大立物《おおだてもの》で、その口から本山派と反対派の捫著《もんちゃく》を聴いたので、わたくしもそれから初めて探索の筋道をたてたようなわけですからね。今でも時々あるようですが、むかしも寺々の捫著はたびたびで、寺社奉行を手古摺《てこず》らせたものですよ」
 併しそこにまだ一つの疑問が残されていた。それは時光寺の住職がかの事件の起る以前からと俄かに犬を嫌うようになったということである。私はそれを聞きただすと、老人は笑って答えた。
「それはなんにも係り合いのないことなんです。住職が犬を嫌うようになったというので、おそらく狐が化けていたのだろうなどという疑いも起って来たんですが、だんだん調べてみると斯《こ》ういうわけでした。住職は出家のことで、ふだんから畜類を可愛がっていたんですが、本山反対の運動を起してから、こんにちの詞《ことば》でいえば神経が興奮したとでもいうのでしょう。なんだか苛々
前へ 次へ
全20ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング