「まあ、こういう訳なんです」と、半七老人は一と息ついた。「わたくしも初めは何がなんだか見当が付かなかったんですが、浅草へ出かけての鶏の一件にぶつかってから、どうもその鶏の一件と鬼娘の一件とが何かの糸を引いているらしいと思い付いたんです。それからだんだん調べて行った挙げ句に、なんでも人間が犬を使ってやる仕事だろうと睨んだので、庄太にそれを相談すると、吉原の堤下にお紺という獣物《けだもの》使いで、質《たち》のよくない女が住んでいるという。それから庄太を探索にやると、果たしてお紺の家には二匹の強そうな犬が飼ってあるという。もうそれで、種がすっかり挙がってしまって、案外に訳なく片付いたんです。捕物の方からいえば楽なんですが、唯そのお紺が犬を連れているというので少し困りました。そこで、庄太の近所にいる腕っ節の強い男を味方にたのんで、人間も犬も一緒に片付けてしまったんです。それでも其の場でぶち殺された犬は仕合わせで、生き残っていた方は飛んだむごたらしいお仕置をうけて可哀そうでした。これが江戸じゅうの評判になって、お紺は犬神使いだなどという噂もありましたが、種を割ってみれば今云ったようなわけで、唯
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