、多くは千住あたりの鳥屋へ売ったと白状した。かれは更にその犬をつかって、猫を捕らせることをも考えているうちに、自分が半七の手に捕えられてしまった。
お紺は引きまわしの上で、千住で獄門にかけられた。三人までも人の命をほろぼしているのであるが、ひとりも自分が手をおろしたのではない。いずれも犬を使ったのであるということが諸人の好奇心をそそって、それが江戸じゅうの評判になった。江戸の町奉行所が開かれて以来、こんな人殺しの記録はかつてなかった。
かれが引きまわしになる時に、一匹の犬も頑丈な口輪をはめられて、その馬のあとから牽《ひ》かれて行った。しかし侍の刀で畜生の首を斬ることはしなかった。犬は主人の首の晒されている獄門台の下に生きながら埋められて、その首だけを土の上に晒されていた。かれは勿論幾日かの後に主人のあとを追ったが、その後も刑場あたりでは夜ふけに犬の悲しい啼き声がきこえるとかいう噂が伝えられて、通行の人々を恐れさせた。お紺の亭主はなんにも知らないというので、この事件に関する重い仕置を免かれたが、平生の身持よろしからずという罪名のもとに、入牢《じゅろう》百日の上で追放を申し渡された。
前へ
次へ
全33ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング