えていたが、やがて両手をぽんと打った。
「あります、あります」
「あるかえ」
「もし、親分。こういうお誂え向きのがありますぜ」
今度は庄太がささやくと、半七はほほえんだ。
「もう考えることはねえ。それだ、それだ」
二人は手筈をしめし合わせて一旦別れた。半七はそれから小梅の知己《しりあい》をたずねて、夕七ツ(午後四時)を過ぎた頃に再び庄太の家をたずねると、となりの葬式の時刻はもう近づいて露路のなかは混雑していた。ふだんから評判のよくない母子ではあったが、それでも近所の義理があるのと、もう一つにはお作の横死《おうし》が人々の同情をひいたとみえて、見送り人は案外に多いらしかった。庄太の家では女房が子供を連れて会葬することにして、庄太は半七の来るのを待っていた。
「もう帰ったのか」
云いながら半七は家《うち》へはいると、庄太は待ち兼ねたように出て来て、すぐに半七を招じ入れた。
「さっき帰って来て、待っていましたよ」と、庄太は誇るように云った。「まったく親分の眼は高けえ、十《とお》に九つは間違いなしですよ。大抵のことはもう判りました」
「そりゃあお手柄だ。やっぱりおれの鑑定通りだな」
「そ
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