取りください」
お伊勢はくり返して頼んで帰った。やがてもう午《ひる》に近くなったので、半七は庄太を誘い出して近所の小料理屋へ飯を食いに出た。
「どうですえ、親分。お調べはもうこんなものですか」と、庄太は酌をしながら小声で訊いた。
「どうも仕方がねえ。差し当りはこのくらいかな」と、半七も小声で云った。「そこで、おれの考えじゃあ、この一件は二つの筋が一つにこぐらかっているらしい。まず人を啖い殺すやつは獣物《けだもの》だな」
「そうでしょうか」
「人を啖うばかりじゃあねえ。そこらで鶏がたびたびなくなるという。勿論、鬼娘が見あたり次第に相手を取っ捉まえて、人間でも鳥でも構わずに、その生血《いきち》を吸うのだと云えばいうものの、どうもそうとは思われねえ。ちょいと、これをみてくれ」
半七は袂をさぐって、鼻紙にひねったものを出すと、庄太は大事そうにあけて見た。
「こんなものをどこで見付けたんですえ」
「それは露路の奥の垣根に引っかかっていたのよ。勿論、あすこらのことだから何がくぐるめえものでもねえが、なにしろそれは獣物《けだもの》の毛に相違ねえ」
「そうですね」と、庄太は丁寧に紙をひろげて、その
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