の店を出て、汗をふきながら舌打ちした。
「まあ、あせるな。これでも眼鼻はだんだんに付いて行く。これからおめえの隣りへ行こう」
庄太は自分の住んでいる露路のなかへ半七を案内すると、となりのお作の家には近所の人達があつまっていた。庄太の女房も手伝いに行っていたが、半七の来たのを知ってあわただしく帰って来た。お作のとむらいは今日の夕方に出るはずだと彼女は話した。
半七は更に庄太に案内させて、露路の奥を見まわった。庄太の云った通り、ぬけ裏のゆき止りを竹垣でふさいであったが、その古い竹はもうばらばらに頽《くず》れかかっていた。そばには共同の大きい掃溜《はきだ》めがあって、一種の臭いが半七の鼻をついた。こういう露路の奥の習いで、そこらの土はじくじく[#「じくじく」に傍点]と湿《しめ》っているのを、半七は嗅ぐように覗いてあるいた。家へ帰ると庄太はささやいた。
「お作のおふくろを呼んで来ましょうか」
「そうさなあ、こっちへ来て貰った方が静かでいいな」と、半七は云った。
お作の母はすぐに隣りから呼ばれて来た。ひとり娘をうしなったお伊勢は眼を泣き腫《はら》して半七のまえに出た。かれは五十に近い大柄の
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