いていろいろ詮議したが、お捨はまだ十五六の小娘で殊に怖《こわ》い方が先に立って一生懸命に逃げ出してしまったので、その女が凄い顔をして牡丹のような真っ紅な口をあいたという以外に、その正体を確かに見とどけている余裕がなかったので、その詮議は結局不得要領に終った。しかし彼女が見たところでは、その女はどうも跣足《はだし》であったらしいというのであった。
 ここの詮議はそれだけにして、半七は更に同町内の酒屋をたずねた。

     三

 酒屋で帳場に居あわせた亭主が庄太の顔をみて丁寧に挨拶した。ふたりは店に腰をかけて、下女のお伝が何者にか啖い殺された当夜のありさまを聞きただしたが、これも薄暗がりの時刻であり、且は不意の出来事であるので、亭主は二人が満足するような詳しい説明をあたえることは出来なかった。しかしお伝は二年越しここに奉公している正直者で、今までに浮いた噂などは勿論なかったと亭主は証明した。
 二人はここを出て、山の宿の小間物屋をたずねたが、これは誰も知らないあいだの出来事であるので、そこの女房がどうして殺されたのか、まるで判らなかった。
「親分。しようがありませんねえ」と、庄太はそこ
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