。
その挙動が怪しいので、気の早い者はすぐに彼を引っ捕えて詮議すると、中間は奉納の鶏に餌をあたえているのだと云った。鳩に豆をやると同じわけで、勿論それだけならば仔細はない。却って奇特《きどく》というべきでもあったが、その言い訳は立たなかった。彼はそのふところに一羽の白い鶏を隠していることを発見された。かれは鶏を釣り寄せて、手早くその頸を絞めていることが判ったので、死んだ鶏は無論に取り返された。そうして、逃ぐる間もなしに引き摺り倒されて、袋叩きの仕置に遭ったのである。武家に奉公している者でも、場所が観音の境内で、しかも奉納の鶏を殺したのであるから、このくらいの仕置きはこの時代としては当然であった。まして多勢《たぜい》に無勢《ぶぜい》であるから、中間はとても反抗する力はなかった。かれは彼等のなすままにおめおめ服従して、白昼諸人のまえに生き恥を晒《さら》すほかはなかった。苦しいのか、面目ないのか、立木につながれた彼は眼を瞑《と》じたまま俯向いていた。その話を聴いて庄太はあざわらった。
「馬鹿な奴だな、若けえ者のくせに飛んだ業晒《ごうさら》しだ」
「これからどうするんですね」と、半七は訊いた
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