の者か、外の者か」
「さあ。そこまでは判らねえが、まあ内の者でしょうね。わっしは妹じゃあないかと思うんですが……。別に証拠もありませんが、なにか一人の男を引っ張り合ったとかいうような訳で……。それとも姉に婿を取って身上《しんしょう》を譲られるのが口惜《くや》しいとかいうので……。どうでしょう」
 そんなことが無いでもないと半七は思った。東山堂の店は主人の吉兵衛と女房のお松、姉妹の娘二人のほかに二人の小僧とあわせて六人暮らしであった。小僧の豊蔵はことし十六で、一人の佐吉は十四であった。主人夫婦が現在の娘を毒害しようとは思われない。二人の小僧も真逆《まさか》にそんなことを巧もうとは思われない。もし家内のものに疑いのかかるあかつきには、まず妹娘のお年に眼串《めぐし》をさされるのが自然の順序であった。しかしまだ十六の小娘のお年がどこで毒薬を手に入れたか、その筋道を考えるのが余ほどむずかしかった。
「おれの考えじゃあどうも妹らしくねえな。ほかの奴が何か細工をしたんじゃあねえか」
「そうでしょうか」と、源次はすこし不平らしい顔をしていた。「そんなら東山堂ではなぜそれを表向きにしねえで、隠密に片付け
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