半七捕物帳
筆屋の娘
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)梅雨《つゆ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)浅草|田圃《たんぼ》の太郎様を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「日+向」、第3水準1−85−25]
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     一

 久し振りで半七老人に逢うと、それがまた病みつきになって、わたしはむやみに老人の話が聴きたくなった。「蝶合戦」の話を聞いたのち四、五日を経て、わたしはこの間の礼ながらに赤坂へたずねてゆくと、老人は縁側に出て金魚鉢の水を替えていた。けさも少し陰って、狭い庭の青葉は雨を待つように、頭をうなだれて、うす暗いかげを作っていた。
「あなたはつけ[#「つけ」に傍点]が悪い。きょうも降られそうですぜ」と、半七老人は笑っていた。
 金魚の手がえしは梅雨《つゆ》のうちが一番むずかしいなどという話が出た。それからだんだんに糸を引いて、わたしはいつもの話の方へ引き寄せてゆくと、老人は「又ですかい」とも云わずに、け
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