とどこおりなく許されたが、あとの詮議がすこぶるむずかしくなった。
自害にしても其の事情はよく取り調べなければならない。他人の毒害となれば勿論重罪である。いずれにしても、等閑《なおざり》には致されない事件と認められて、第一の報告者たる半七が、その探索を申し付けられた。半七はすぐ源次を近所の小料理屋へ連れて行った。
「おい、源次。ちょいと面白そうな筋だが、なにしろ娘はゆうべ死んで、もうすっかり後始末をしてしまったところへ乗り込んで来たんだから、場所にはなんにも手がかりはねえ。どうしたもんだろう。おめえ、なんにも当りはねえのか」
「そうですねえ」と、源次は首をひねった。誰のかんがえも同じことで、舐め筆の娘の変死はいずれ色恋のもつれであろうと彼は云った。
「そこで、自分で毒を食ったのか、それとも人に毒を飼われたのか」
「親分はどう睨んだか知らねえが、わっしは自分でやったんじゃあるめえと思います。なにしろ其の日の夕方までは店できゃっきゃっとふざけていたそうですからね。それに近所の噂を聞いても、別に死ぬような仔細は無いらしいんです」
「そうか」と、半七はうなずいた。「そこで娘に毒を食わしたのは内
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