金目《かねめ》になりそうな物を手あたり次第にぬすみ取り、風呂敷につつんで背負い出そうとしたが、それでもまだ飽き足らないで、仏前にそなえてある餅や菓子を食い、水を飲んだ。そうして何かの毒にあたって死んだらしいということが判った。
 取りあえずそれを善昌の出先きへ報らせてやると、かれも驚いて帰って来た。かの男はどうして死んだのか判らないが、仏前の餅や菓子に毒のはいっている筈はないと善昌は云った。かれは諸人のうたがいを解くために、かれらの見ている前でその餅や菓子を食ってみせたが、別になんにも変ったことはなかった。そんならかの男はなぜ死んだか。かれは盗人で、賽銭をぬすみ、仏具をぬすみ、あまつさえ仏前の供物《くもつ》まで盗み啖《くら》ったので、たちまちその罰を蒙って供物が毒に変じたのであろうと、諸人は判断した。かれらは今更のように弁財天の霊験あらたかなるに驚嘆して、信心いよいよ胆《きも》に銘じた。その噂がまた世間にひろまって、信者は以前に幾倍するようになった。諸方からの寄進も多分にあつまって、弁天堂は再び改築されたので、狭い露路の奥にありながらも、その赫灼たる燈明のひかりは往来からも拝まれて、ま
前へ 次へ
全33ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング