から、ここまでお話をすれば、もう大抵お判りになったでしょうが、弁天堂で死んでいたのはやっぱり髪結のお国で、善昌は生きていたんです」
「善昌が殺したんですか」と、わたしは訊いた。
「そうです。善昌という尼はひどい奴で、当人は一々白状しませんでしたけれど、前にもいろいろの悪いことをしていたらしいんです。勿論、お国という女も無事には済まない身の上で、こうなるのも心柄です。初めにお話し申した通り、弁天堂のお賽銭や仏具をぬすみ出そうとして菓子や餅の毒にあたって死んだ若い男がある。あれは仏の罰でも何でもない、善昌とお国が共謀して殺したんです。誰もそれに気がつかないで、可哀そうにその男は身許不詳の明巣《あきす》ねらいにされて、近所の寺へ投げ込まれてしまったんですが、実は善昌のむかしの亭主の弟だそうです。善昌は越中富山の生まれで、早く亭主に死に別れて江戸へ出て来て、本所で托鉢の比丘尼をしているうちに、どこからか弁天様を見つけ出して来て、いい加減の出鱈目《でたらめ》を吹聴すると、その山がうまくあたって、だんだんにお有難連の信者がふえて来た。ところへ、ひょっくりと出て来たのが先《せん》の亭主の弟で与次郎と
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