ぞろ彼を近所の料理屋へ連れ込んで、半分は強面《こわもて》でおどしているところを、あたかも半七に見つけられたのであった。入墨者の彼はふところにのんでいた匕首《あいくち》をぬく間もなしに押えられた。はじめはかれこれ強情を張っていたが、土蔵のなかから本人のおきわが現われたのと、良次郎が正直に白状したので、六蔵ももう恐れ入るよりほかはなかった。
お糸は吟味中に牢死した。六蔵は入墨の前科者だけに罪が重く、悪人と共謀して主人の娘を牢獄同様のところに押し籠めて置いたというので死罪になった。張本人の由兵衛は無論に重罪であった。後家とはいいながら主人の妻と不義をかさね、あまつさえ家督相続の娘を押し籠めて其の身代を横領しようと巧んだのであるから、引き廻しの上で獄門にさらされた。良次郎も相当の処刑を受くべきであったが、主人の命でよんどころ[#「よんどころ」は底本では「よんどろ」] なしに引き受けたというのと、かれは日頃孝心の深い者であるというのとで、上《かみ》にも特別の憐愍《れんびん》を加えられて、単にきびしく叱り置くというだけで家主に引き渡された。
向島の寮は取り毀された。これは上《かみ》からの命令で
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