人娘のおきわがもう十九になって、親類の手前、世間の手前、相当の婿を貰わなければならないことになった。殊に容貌《きりょう》好しに生まれているので、諸方から縁談を申し込んで来る。それが由兵衛には面白くなかった。かれは自分の甥を店の養子に直して、自分が後見人格でこの大身代を掻きまわそうという悪法を巧《たく》んでいたが、その甥はまだ十五の前髪で、おきわと妻合《めあ》わせるわけには行かない。もう一つには、おきわはなかなか利巧な娘で、自分たちの不義を薄々覚っているらしいので、由兵衛はなにかにつけて彼女を邪魔者と見て、結局お糸をそそのかして彼女を放逐してしまおうと企てたが、なんの落度もない家付きの娘をむやみに追い出すわけには行かないので、かれは更に大胆な計画を立てた。
色に溺れた四十女のお糸はもう我が子の愛を忘れてしまって、由兵衛の計画に同意することになった。由兵衛は先ず寮番の六蔵を抱き込んで、去年の夏おきわをだまして向島の寮へ誘い出して、大きい古土蔵の奥に閉じ籠めてしまったのである。しかし家付きの娘が突然に消えてなくなったと云っては、親類や世間の手前が済まないので、おきわは店の若い者と駈け落ちを
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