から、二、三日おとなしく待っているがいい」
御用聞きと聞いて、女は急に涙を拭いた。そうして、伜のゆくえを探索してくれるようにくれぐれも頼んだ。
三
お通と良次郎のほかに、半七はおきわという娘のゆくえをも突き留めなければならなかった。おきわは向島の寮に押し籠《こ》められて、土蔵の二階に住んでいるに相違ない。お通が見たという幽霊のような女はそれである。半七は確かにそれと見きわめながらも、まさかにつかつか踏み込んで出しぬけに土蔵の戸前《とまえ》をあけるわけには行かないので、もう少し確かな証拠を握りたいと思った。かれは今戸の露路を出ると、すぐに向島の方角へ足をむけると、陰った空は又暗くなって、霧のような雨が煙《けむ》って来た。途中で番傘を買って、竹屋の渡しを渡って堤《どて》へ着くと、雨はだんだんに強くなって葉桜の堤下はいよいよ暗くなった。
もう午《ひる》に近いので、かれは堤下の小料理屋へはいって、しじみ汁とひたし物で午飯をくっていると、古ぼけた葭《よし》の衝立《ついたて》を境にして、すこし離れた隣りにも二人づれの客が向い合っていた。はじめは二人ともに黙ってちびりちびり飲んで
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