と届けてよこしたんです」と、女は泣きながら云った。「これが確かな証拠です。御主人の為にと書いてあるじゃありませんか。親の為とも書いているのを見ると、三年の間どこにか隠れていれば、きっと五十両やるとか百両やるとかいう約束があるに相違ありません。あれは親孝行な人間ですから、そんなことを引き受けて御褒美を貰って、親に楽をさせる料簡なんでしょうが、わたしの方じゃあお金なんぞは要りません。それより一日も早くわが子の無事な顔がみたいと思っています。三十両のお金は幾らか遣いましたけれど、残った分はみんな返しますから、どうぞ伜を連れて来てください。お願いですから」
 かれは再び半七の袖を掴んで、ゆすぶりながら泣いて口説いた。お山という娘も声をたてて泣き出した。
 思いもよらない愁嘆場《しゅうたんば》を見せられて、半七ももう仮面《めん》をかぶっていられなくなった。
「おかみさん。もう斯うなりゃあ何もかも正直に云うが、わたしは霊岸島から来た者じゃあねえ。わたしは御用聞きの半七という者で、実は少し調べたいことがあって出て来たんだが、おまえの話でみんな判った。もう案じることはねえ。良次郎はきっと連れて来てやる
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