て、柳橋に芸妓屋を開いていることが判った。甥の長吉はやはり河童になって、両国の観世物小屋に晒《さら》されていることが判った。長平は甥にも逢った。偶然の機会から新兵衛にも出逢った。
新兵衛はもう生まれ変ったような善人になっているので、むかしの友達の弟に逢ってしきりに過去の罪を謝した。自分たちが手にかけた大尽一家の菩提《ぼだい》を弔うばかりでなく、長左衛門が仕置に逢ったのは二月四日で、その命日に毎月かならず放し鰻の供養を怠らないと云った。彼はある寺から長左衛門の戒名を貰って来て、仏壇に祀《まつ》ってあることも話した。長平もむかしとは人間が違っているので、悔い改めているこの善人を執念ぶかく責めることも出来なくなった。かれは新兵衛の罪をゆるすと云った。新兵衛はよろこんで、御報捨のしるしだと云って彼に二十両の金を贈った。
その金が二人の禍いであった。久し振りで二十両の大金を受け取った六十六部は、その晩すぐに服装《みなり》をこしらえて吉原へ遊びに行った。それが口火《くちび》になって彼の殊勝らしい性根はだんだんに溶けてしまった。六十六部は再び昔の長平に立ちかえって、新兵衛のところへ度々無心に行っ
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