た。しまいには金の無心ばかりでなく、彼は新兵衛の貰い娘《こ》のお照の美しいのを見て、飛んでもない無心までも云い出すようになった。相手の飽くことのない誅求《ちゅうきゅう》には、新兵衛もさすがにもう堪えられなくなって、終には手きびしくそれを拒絶すると、長平はいよいよ羊の皮裘《かわごろも》をぬいで狼の本性をあらわした。彼は甥の河童をそそのかして親のかたきを討たせたのであった。

「これは河童の長吉の白状と、長平の白状とをつきまぜたお話で、長吉は叔父の手さきに使われて、ただ一途に親父のかたき討の料簡でやった仕事なんです」と、半七老人は説明した。「つまり新兵衛の方はすっかり善人になり切っていたんですが、長平の魂はまだほんとうの善人になり切らないもんですから、すぐにあと戻りをして、とうとうこんな事件を出来《しゅったい》させてしまったんですよ」
「長平は勿論つかまったんですね」と、わたしは訊いた。
「河童の白状で大抵見当が付きましたから、それからお照の家の近所に毎晩張り込んでいますと、新兵衛の初七日《しょなのか》が済んだ明くる晩に、案の定《じょう》その長平が短刀を呑んで押し込んで来て、どうする積りか
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