割ってそれぎりよ。そうなると世間では又いろいろのことを云って、竹の野郎は津の国屋から幾らか貰って、得心《とくしん》ずくで黙っていたに相違ねえ。あいつが変死をしたのは娘のおもいだと、まあこういうんだ」
「怖いわねえ。悪いことは出来ないわねえ」と、文字春は今更のように溜息をついた。
「どっちにしてもお安という娘は死ぬ、その相手だという竹の野郎もつづいて死ぬ。それでまあ市《いち》が栄えたいう訳なんだが、ここに一つ不思議なことは、忘れもしねえ今から丁度十年前……。これは師匠も知っているだろうが、津の国屋の実子のお清さんがぶらぶら病いで死んでしまった。そりゃあ老少不定《ろうしょうふじょう》で寿命ずくなら仕方もねえわけだが、その死んだのが丁度十七の年で、先《せん》のお安という娘と同い年だ。お安も十七で死んだ。お清も十七で死んだ。こうなるとちっとおかしい。表向きには誰もなんとも云わねえが、先の貰い娘の一件を知っているものは、蔭でいろいろのことを云っている。それにもう一つおかしいのは、あのお清さんの死ぬ前にちょうど今夜のようなことがあったんだ」
「棟梁」
「いや、おどかす訳じゃあねえ」と、兼吉はわざと
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