って、どこかよそへお出でなすってください」
かれは小女に指図《さしず》して、煙草盆と茶とを運ばせると、半七は表を見かえって声をかけた。
「もし、お前さんもここへ来て、茶でもお上がんなさい。ここの家じゃ何も出来ねえそうだから」
鳥さしの老人は、軒さきに黐竿を立てかけてはいって来た。その人をみると、辰蔵の眼は急に光った。
五
「はあ、大きな銀杏《いちょう》だな」
半七は茶を飲みながら往来をながめた。今までは気がつかなかったが、この店の筋向いには何か小さな祠《ほこら》のようなものがあって、その前の空地には可なり大きい銀杏の木が突っ立っていた。時雨を浴びた冬の葉は、だんだんに明るくなって来た日の下に、その美しい金色をかがやかしていた。
「なに、葉が落ちてしようがありませんよ」と、辰蔵は云った。
「だが、銀杏は冬がいい」
新らしい草履でぬかるみを爪立ってあるきながら、半七はその銀杏の前に立った。足の下には黄いろい落葉が一面にうず高くなっているのを、半七は何げなく眺めていたが、更に眼をあげて高い梢《こずえ》を仰いだ。そうして又うつむいて、何かその落葉でも拾っているらしかったが
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