、そのお此がどうして小僧を殺したか、彼もさすがに早速の判断を下すことが出来なかった。その思案の眼色をうかがいながら、利兵衛はつづけて語り出した。
「徳次郎が病気になりましたのは、ちょうどお雛様の宵節句の晩からでございまして、ほかの奉公人の話によりますと、夕方から何だか口中が痛むとか申して、夜食も碌々にたべなかったそうでございます。それが夜あけ頃からいよいよ激しく痛み出して、あしたの朝には口中が腫れふさがってしまいました。口をきくことは勿論、湯も粥《かゆ》も薬もなんにも通らなくなりまして、しまいには顔一面が化け物のように赤く腫れあがってしまいました。したがって、熱が出る、唸《うな》る、苦しむというわけで、医者も手の着けようがないような始末になりましたので、主人は勿論、手前共もいろいろと心配いたしまして、とうとう宿の方へ下げることに致しましたのでございます。こんな病気になるについては、なにか自分で心あたりがないかと、病中にもたびたび聞きましたが、ただ唸っているばかりで、なんにも申しませんでした。それが宿へ帰ってから、どうしてそんなことを申したのか、少し不思議にも思われますが、なにしろお此さ
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