やを思いあわせますと、なるほどお前さんの御鑑定が間違いのないところでございましょう。まったく恐れ入りました。手前どもがそばに居りながら、商売にかまけて一向その辺のことに心づきませんで、まことに面目次第もないことでございます。そこで、親分さん。このことは主人にだけは内々で話して置く方がよろしゅうございましょうね」
「旦那にだけは打ち明けて置く方がいいでしょう。又あとのこともありますからね」
「大きに左様でございます。どうもいろいろありがとうございました」
ここの勘定《かんじょう》は利兵衛が払うというのを無理にことわって、半七は連れ立って表へ出ると、雨あがりの春の宵はあたたかい靄《もや》につつまれていた。ちっとばかりの酒の酔いに薄ら眠くなって、もうお祭りでもないと思ったが、どうしても顔出しをしなければ義理の悪いところがあるので、遅くもこれからちょっと廻って来ようと、半七はここで利兵衛と別れた。
浅草の並木で一軒、広小路で一軒、ゆくさきざきで祭りの酒をしいられて、下戸《げこ》の半七はいよいよ酔い潰れたので、広小路から駕籠を頼んで貰って、その晩の四ツ(午後十時)過ぎに神田の家へ帰った。帰る
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