表向きの商売は刻み煙草の荷をかついで、諸屋敷の勤番部屋や諸方の寺々などへ売りあるいているのであるが、それはほんの世間の手前で、実は小博奕《こばくち》などを打っている無頼漢《ならずもの》であることを半七は知っていた。堅気《かたぎ》に見せかけても何となくうしろ暗いところがあるので、彼は半七にむかっては特別に腰を低くして、しきりに如才なく挨拶していた。飛んだところで忌《いや》な奴に逢ったとは思いながら、半七はまずいい加減にあしらっていると、伝介は茶を汲んで来て小声で訊いた。
「親分も徳蔵の家《うち》を御存じなんですかえ」
「いや、兄貴は知らねえが、弟の方は山城屋さんにいる時から知っているので、きょうは見送りに来たのさ。なにしろ若けえのに可哀そうなことをしたよ」
「そうでございますよ」と、伝介はなんだか腑《ふ》に落ちないような顔をしていた。
「おまえもこうして働いているようじゃあ、徳蔵とよっぽど心安くしていると見えるな」
「ええ。ときどき遊びに行くもんですから」と、伝介はあいまいな返事をしていた。
葬式が済んで寺の門を出ると、この頃の春の日はもう暮れかかっていた。帰るときに会葬者は式《かた》
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