の通りの塩釜をめいめいに貰ったが、持って帰るのも邪魔になるので、半七はその菓子を山城屋の小僧にやった。そうして、そばにいた利兵衛にささやいた。
「番頭さん。済みませんが、少しお話し申したいことがありますから、小僧さんだけを先に帰して、おまえさんはちょいと其処らまで一緒に来て下さいませんか」
「はい、はい」
 云われた通りに小僧を帰して、利兵衛は素直に半七のあとに付いてくると、半七はかれを富岡門前の或る鰻屋へ連れ込んだ。ここでは半七の顔を識っているので、丁寧に案内して奥の静かな座敷へ通した。半七も利兵衛も下戸《げこ》であったが、それでもまず一と口飲むことにして、猪口《ちょこ》を二、三度やり取りした後に、酌の女中を遠ざけて、半七は小声で云い出した。
「さっきも云う通り、徳次郎の一件はまあ百両で内済になって結構でしたよ」
「そうでございましょうか」
「後日に苦情のないという一札をこっちへ取って置いて、死骸は今夜火葬になってしまえば、もう何もいざこざ[#「いざこざ」に傍点]は残りませんからね。まあ、おお出来と云っていいでしょう。旦那にもよくそう云ってください。そうして、くどいようだが、当分は隠
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